見えないぬくもりをもとめて。
I様邸(岐阜県下呂市)

ときおり居酒屋の奥に、仲間同士が揃って足を落とす座敷を見つけることがある。テーブル席や畳にもそれなりの良さはあるが、堀りごたつには得も言われぬ、親しみ深いくつろぎがあり、万人の顔には笑みが浮かぶほど、人を優しくする。それはかつていろりを囲んで暮していた頃の記憶というDNAが、堀りごたつへと脈々と息づいている証なのだ。Iさんご夫婦が長年求め続けた「ほっとするひととき」もまさにそれ。ご主人があたためていた『堀りごたつ』というキーワードから、はたしてどんなリビングが誕生しただろうか。
インタビュアー / 馳 純

—— リフォームしようと思ったきっかけは?
地方公務員を今年度で定年退職します。40年間は県内の勤務先を転々し、官舎から官舎へと住み替える人生でした。狭い官舎の中で肩を寄せ合うように暮らしていた五人家族にとっては、新築は夢のまた夢でしたが、家族が揃ってさえいれば官舎もマイホームも何ら変わりありません。子どもたち3人はようやく巣立ってくれ、なんとか夫婦で定年後の青写真を描くことができるようになりました。両親とは仕事柄ずっと別居でしたが、退職を機に両親と一緒に暮らすことにしました。心機一転、新たな暮しをスタートするなら新築でしょうが、限られた予算の中で、家族の団らんの場となるリビングとキッチンだけは新しくしたい。それがことの始まりでした。
—— シードックホームに決めるまでの経緯と選んだ決めては何ですか?
シードックホームさんの新築見学会が清閑な住宅地で行われました。
見に行きましたら、なんとそこに『堀りごたつ』があったのです。
頭で描いてものが目の前にある訳ですからますます気になり、つい、私どものリフォームへの経緯や予算などを正直に話しました。
対応していただいた方とは初対面でしたが、「ここにお願いしよう」というような雰囲気に自然となりましたね。
他の建築会社との比較検討はしませんでした。

—— 新築を多く手がけるシードックホームに、リフォームを頼むことに不安はありませんでしたか?
私たちの希望や漠然としたイメージを具体化するだけでなく、暮しに美意識を持たせるような提案が多かったですね。
使い勝手もさることながら、「こんなリビングだったらずっといたい」と思うような、女性心をとても大切に考えてみえました。
結果的には新築会社とか、リフォーム会社だとかということは、決めるにあたって影響はしていませんでした。
—— 工事中のスタッフや職人の印象はいかがでしたか?
両親はリフォーム中も母屋に暮らしていましたが、私どもは現場が高山から離れていましたので、休日にしか行けませんでした。
6月に工事を着工開始し、この秋に完成しましたが、着工開始前に『着工式』がありました。
この式ではわが家に携わるすべての職人さんと対面することができ、「こういう人が作ってくれるんだ」という安心感が生まれました。
これは施主の私だけでなく、職人さんにも言えることで、スケジュール案配では、着工式以後、私どもと顔を合わせることがない職人さんもいます。
面識のあるのとないとではずいぶんと違いますね。



—— 工事が完成して気に入っているところはどこですか?
新たに『堀りごたつ』が作れたことかな。
このこたつ、天板の寸法は畳一枚の大きさなんです。
これでもかなり大きいのですが、親戚が来るとオプションごたつをジョイントし、さらに大きくできるような工夫をしました。
つなぐと横幅は実に3m近くにもなり、老若男女が掘りごたつに足を落とす様子は壮観です。
私は食品をストックできる食品庫と、キッチンの横から庭へ出られる勝手口をつけてもらったこと。
庭へは水道のほかに山からわき水を引いているんです。
わが家では山水をとても重宝していますので、新旧取り混ぜた暮しが気に入っています。
—— 完成したお部屋は想像していた通りになりましたか?
発想のベースは『堀りごたつ』だったのですが、打ち合わせを重ねるうちに、こたつを取り囲む、回りのしつらえが次第に具体的になってきました。
間接照明やモダンな床の間、キッチンの飾り棚など、素人では想像すらできないデザインが随所に盛り込まれています。
「これが自分たちの考えていたことなんだ」と実感できるのも、具現化していただいた方の提案があったからこそで、あらためて感謝しています。

—— 工事の仕上がりと価格のバランスはいかがですか?
新築だったら他の空間にも予算が取られてしまい、ここまでのキッチン・リビングにすることは無理だったでしょうね。
中谷さんには限られた予算の中で、使い勝手とデザインの両立を実現するという矛盾に立ち向かってもらった訳ですから、バランスは取れていると思いますよ。
—— これから家を建てようとしている方にメッセージをお願いします
私の場合は『堀りごたつ』。
家内は庭まで引き込んだ山水。結果的には、どうってことのないこだわりがきっかけになって出会いが生まれ、双方がすり合わせてゆく中で、具体的な形になっていく。
そういう意味ではなんらかのキーワードって大切だと思います。
「自分たちが活かせる」ことがリフォームの基本ですから、担当者とよく話しあうことをお薦めします。


