「家のなかにへそをつくる」
N様邸(岐阜県郡上市)
家をつくる方法は誰も教えてくれない。『定年を迎えたら、このようなリフォームをし、家具や調度はこのようにしつらえなさい」と、父や祖父から教わった人はいるだろうか。いや、皆無といっていいだろう。祖父や父があなたに無関心だったから?いや、私たちの暮らしはここ50年で激変してしまい、家も家族もコミュニケーションのかたちも大きく変わってしまったからだ。だから、先輩たちは誰もあなたにアドバイスすることことができないのだ。こんな時代に「おおこれぞ、わが暮らし!」と手応え十分に覚醒できるような住まいを願うのは、シルバーエイジにとって無理な注文なのだろうか?いや、じつはそれはさして難しいことではないのだ。目をつぶってあなたの「へそ」を指せばいい。自分にとって一番大事な暮らしのへそを、家の真ん中に据えれば、自分の生き方にぴったり合った「住まい」が獲得できるのだ。家人のN様のへそは何だったのか?そしてへそのあるリフォームはどうだったのか?
【インタビュアー/馳 純】
—— リフォームしようとしたキッカケは?
亡き父がはじめた荒物屋さんは、日があたる路面側が店舗で、日が当らない奥が家人たちの住まいという、典型的な商家の作りでした。私は団体職員として外に勤務していましたが、3年前に定年を迎えました。定年は男にとって大きな転換期なのですが、これをネガティブにとらえるのではなく、「自分を取り戻す人生の始まり」と、ポジティブにとらえました。始まりはまず住まいということで、私の「へそ」を中心にしたリフォームプランが、シードックホームさんから出されました。
—— シードックホームに決めるまでの経緯と選んだ決め手。
「柔は剛を制す」ということわざがありますが、私のへそはまさにそれで、若い頃は相撲に始まり、腕相撲やバーベル挙げなど、なにか強い力というものに憧れていました。その半面、音楽にも興味を持ち、ジャズからポップスなど洋楽はなんでもござれ。ミュージシャンが来日するとコンサートに行かなきゃ気がすまないというタイプでした。やがて剛は年とともに消え、かわりに柔ともいえる音楽とお酒が、私のへそになりました。いつも好きな音楽と映像に包まれていたい。バーカウンターのようなスペースがほしい。岐阜方面を中心としながら、高山へも足を伸ばし、私のへそを刺激するような空間づくりを探し求めました。そしてシードックホームさんに出会ったのです。
—— シードックホームは新築を手がける会社というイメージが。
一戸建ての新築の場合、家族構成によっては「へそ」がいくつもになります。奥さんにしたら台所に最大の予算を投じたいでしょうし、旦那さんだったら、防音壁をはりめぐらせたミニシアタールームに、最大の予算を投じたいかも知れない。でもこれだと予算が足らなくなります。私の場合は古い2階を使いながら1階の住居部分をリフォームし、水回りを一新しながら「へそ」をあらたにくわえました。一戸建てとくらべたら間取りは少ないのですが、空間への要望やクオリティーに新築もリフォームも差はありません。「新築が得意なところはリフォームが苦手」という定説があるとしたら、私の「へそ」づくりは満足のゆく結果にはならなかったのでしょうね。
—— 地元の業者ではなく高山の建築会社にしたのは?心配は?
高山とくらべ、白鳥町のような田舎では、義理というものがまだまだ重んじられています。不動産チラシを見て買うのと違い、注文住宅やリフォームとなると、地元の業者ということになり、あちらを立てばこちらが立たずということで人間関係にまで響いてきます。美濃と飛騨は距離が離れていますが、高山には親戚や父の代の頃のお得意さんがいて、まんざら縁がないことはなく、見学会の印象もよかったことから、迷うことなくシードックホームさんに決めました。
—— 工事中のスタッフの印象は?
郡上八幡の業者さん以外はすべてシードックホームさんのスタッフでした。大工さんは無駄口もたたかず、黙々と働かれる方でしたね。近いとはいえ高山から白鳥までは80キロほどありますから、職人さんは通行料金を払い、自動車道を使って毎日現場へ。ほんとうにご苦労さまでした。
—— 工事が完成して気に入ったところは?
リビングからキッチン、バス、トイレなどへ素早く移動できることかな。若い頃、スポーツに親しんできたおかげで、まだまだ機敏に動けますが、将来を考えると、手短かなところに水回りがあるのは大事ですよ。
ほかには自然光が入るバーカウンターの上の天窓。ほんの小さなことだけど、自然の光が届くだけで安心ができます。
年齢を重ねると、旅にでかけた数の分だけ思い出の品々が増えてきます。埋め込み式の飾り棚には、国内外のお面を並べることができて満足しています。宝物ですからね。
なんといっても好きなオーディオと映像を畳のリビングで楽しめること。思いついたら、ちょいとバーカウンターへ。疲れたと思えば、ちょいとマッサージ機へ。体がなまったら、バルコニーのオリジナル鉄棒で筋力アップ。最小の行動範囲で物事をすべてこなすのは年配者の得技ですが、そこをセンスよくおしゃれに、そして楽しく、機敏に。というのが私の願うところです。
—— 完成したお部屋は想像していたとおりでしたか?
娘が友達を誘うようになりましたね。私の友人も二次会がわりにここを使いだしましてね、多いときは8人、満席ですよ。日本酒、ウイスキー、ブランデー、焼酎と、なんでもありますし、バーカウンターの手前の4人掛けのテーブルでは、鍋なんかもできますから。BGMやBGV付きの居酒屋なんてなかなかないです。なんていったってデビューしたてのスティービ・ワンダーや、若き日のジョン・レノンの貴重な映像をお見せできますから。
—— 工事の仕上がりと価格のバランスは?
私の場合は「おお、これぞ私の暮らし」というものを発見できましたから、価格とのバランスは十分取れています。余談ですが定年後、新たな会社からも再就職の声をかけていただいたり、娘と一緒に旅行に行こうと計画したり、第二の人生をポジティブに生きようと張り切ってきます。そのエネルギーの源が「癒しのある住まい」。家が人生のすべてとは言いませんが、気に入った住まいは生き方まで変えてくれそうです。
—— これからリフォームを考えている方にメッセージを。
30代の若いご夫婦は参考になりませんが、シルバーエイジをこれから迎える方や迎えられた方は、人生をポジティブに生きていくためには努力が必要です。たまたま私は好奇心が強く、スポーツや音楽を人生の糧にできました。人に自慢できる趣味がないと言われる方も、大のお風呂好きだったりするかも知れません。そんな方は一番日当りのいいところにゆったりとしたお風呂を作ったらどうですか。爽快で明るいスパのようなお風呂空間をへそにしたっていいじゃありませんか。